小説は一文ずつ読めば滑らかでも、100章を通して読むと筋が分からなくなることがあります。人物の肩書きが途中で変わる、曖昧な代名詞が別人を指してしまう、繰り返し出てくる表現が以前の意味を失う。AIで小説を丸ごと翻訳するときは、こうした問題を見越して準備する必要があります。
まず用意するのは、きちんと読めるEPUBファイルと、はっきりした目的です。原文と照らし合わせながら読む閲覧用の版、比較用の対訳版、あるいは編集作業の素材として使う版。どの目的であっても、自動翻訳を完成した文学作品の版と見せかける必要はありません。
小説を通して読む目的に合った方法を選ぶ
ファイル単位で動くEPUB翻訳ツールは、小説を丸ごとアップロードして、ダウンロードできる電子書籍を受け取りたいときに便利です。章ごとにテキストを処理する方法は、細かい調整がしやすい半面、章の順序、用語の決定、挿絵、最終的な本の体裁を自分でまとめて管理することになります。
Calibreと別途の翻訳プラグインを組み合わせる方法もあります。すでにその環境を使っていて、エンジンを自分で設定したい場合に向いています。プラグインの現在の挙動については公式ドキュメントで確認してください。デスクトップソフトをインストールしたからといって、それだけで翻訳エンジンがローカル動作やオフライン動作になるわけではありません。
出版を前提とする本なら、プロジェクトに専門の翻訳者または校閲者、そして電子書籍制作の確認工程を加えてください。ソフトウェアは下書き作りを助けますが、語り口、曖昧さ、権利、編集上の責任を決めてくれるわけではありません。根拠のない「人間並みの品質」や「無検閲」といったうたい文句ではなく、こうした作業範囲を基準に方法を選びましょう。
プロンプトを考える前にファイルを整える
元のEPUBを開き、目次を確認します。小説全体が入っているのか、書き出した途中までの章しかないのか。抜けている節、重複した章見出し、画像として埋め込まれたテキストがないかを見てください。作業フォルダとは別に、原文のきれいなコピーを保管しておきます。
章を掲載したウェブサイトは、EPUBファイルとは別物です。PDF Craftの小説向けの流れは、用意したファイルから始まります。ウェブサイトから連載をダウンロードする機能はありません。スキャンした本の場合は、まず文字認識と読み順の復元が必要です。この準備についてはスキャンしたPDFをEPUBにするガイドで扱っています。
長い小説や挿絵の多い小説では、アップロード前に現在の容量・処理の上限を確認してください。ファイルサイズが小さいから短いとは限らず、大きいからといって本文が多いとも限りません。画像が容量の大半を占めることもあります。サイズを小さくするためだけに本を無作為に分割すると、章や参照の扱いがかえって複雑になるので避けましょう。
人名と一貫性について役立つ指示を与える
確認する側が検証できる形で希望を書きましょう。「美しく翻訳する」では、その本にとって重要な判断がほとんど伝わりません。短く具体的な指示のほうが役に立ちます。
現代スペイン語として自然に訳してください。人名は変更しないでください。組織名「Winter Assembly」は「Asamblea de Invierno」と訳してください。地の文のフォーマルな調子と、会話のくだけた調子の違いは保ってください。
これは指示の書き方の例であり、実際の出力を約束するものではありません。実際の小説に合わせて調整し、推測に基づく人物関係やあらすじを加えないようにしてください。結末を読んでいないなら、自信ありげでも誤った人物紹介は助けにならず、かえって判断を誤らせます。
準備しておくと役立つのは次のような項目です。
- 繰り返し出てくる人名や地名をいくつか挙げ、どう扱いたいかを書く。
- 肩書き、階級、作中の造語、組織名など、訳語が重要なもの。
- 意図するフォーマルさの度合いと、必要なら翻訳先の言語の地域差。
- 原語のまま残したい名前についての注記。
PDF Craftでは、こうした希望を翻訳指示の欄に記入します。処理の指針にはなりますが、すべての出現箇所が指示どおりになる保証はありません。繰り返し出てくる表現を確認するときは、自分でもメモを残しておきましょう。ファイルを丸ごとアップロードしたからといって、本全体を完全に記憶してすべての箇所に反映できるとは限りません。
版を選び、結果をダウンロードする
小説翻訳ツールでEPUBをアップロードし、翻訳先の言語を選び、出力モードを指定します。翻訳のみの出力は、通して読み進めたいときに便利です。対訳出力は原文の各段落の後ろに訳文が並ぶため、会話や難しい文をその場で確認しやすくなります。
送信する前に設定と現在の料金を確認してください。新規ユーザーには試用クレジットが付き、翻訳は利用量に応じて課金されます。処理が終わったらEPUBをダウンロードし、いつも使っているリーダーで開きます。デスクトップアプリは、その後の読書や整理に使いたい場合の任意の選択肢です。
原文と訳文は、それぞれ別のファイル名で保存しておきましょう。後の場面が、以前に出てきた用語や出来事を参照するときに、両方が必要になります。
抜け・語り口・重要な場面を分けて確認する
小説の確認は、網羅性と文体を切り分けると進めやすくなります。まず章のナビゲーション、章の始まりと終わり、挿絵、注記などを照合します。印象的な最終段落が抜けていないか、次の見出しにくっついていないかを確認してください。
次に、対照的な場面をいくつか原文と読み比べます。
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 複数の人物による会話 | 誰が話し、誰に向けて話しているか。フォーマルさの度合いは保たれているか。 |
| 説明や真相の開示 | 限定や否定、不確かさが、断定に変わっていないか。 |
| 繰り返し出てくる名前や造語 | 序盤と終盤の章を通して、同じものだと分かるか。 |
| 感情的な場面やユーモアの場面 | 文法的に正しい文になっているだけでなく、その状況が伝わっているか。 |
| 章の切り替わり | 場面転換が残っているか。読み順は明確か。 |
物語全体で重要な用語は、1か所だけでなく複数の出現箇所を検索してください。意味が分からない場面は、翻訳が誤っていると決める前に、近くの原文の段落を確認しましょう。小説は情報を意図的に伏せていることがよくあります。
気になる箇所に印を付けながら読み進めてもかまいませんが、重要な引用や出版に使う箇所は、気軽な読書とは別に扱ってください。そうした箇所は対訳でより注意深く確認し、用途に応じて必要な校閲を受けてください。