認識済みのテキストが詰まったフォルダは、まだリサーチノートとは言えません。次に必要なのは、書籍に書かれていること、OCRが読み取ったこと、そして自分が考えたことを区別したまま残すことです。
ページ数の多いスキャン書籍では、Markdownがこの作業に向いています。テキストを編集でき、扱いやすい単位でファイルを分割でき、ノートから出典箇所へリンクを張れます。引用、ページ参照、表、読み取りが不確かな語については、PDFを正とします。
原本と抽出結果をそのままの状態で残す
PDF to MarkdownでスキャンしたPDFをアップロードし、出力形式にMarkdownを選んで変換結果をダウンロードします。原書のテキストを研究する場合は翻訳をオフにしてください。必要に応じて別途翻訳することはできますが、翻訳した文言を出典の転記に混ぜると、後の引用が難しくなります。
ダウンロードした結果は、編集する前に保存しておきます。ローカルのフォルダを次のように分けておけば、作業段階がひと目でわかります。
book-project/
source/book-scan.pdf
extraction/original-output.md
working/chapter-01.md
working/chapter-02.md
notes/themes.md
notes/quotation-log.md
これはご自身のストレージで使うフォルダ構成の一例であり、PDF Craftのエクスポート機能ではありません。ダウンロードした画像リソースがある場合は作業用Markdownと同じ場所に置き、ファイルを移動するときは相対パスを確認してください。
まずは見出し、段落の順序、読み取りが難しいページ、ページをまたぐ箇所を確認します。OCRは語を認識できても、順序を誤って再構成することがあります。テキストを何十ものノートに振り分ける前に、この確認を済ませておきましょう。
アイデアで分ける前に章で分ける
最初の分割は原書の章の区切りに合わせます。章題と節見出しを残しておけば、引用の前後にある議論へ戻って確認できます。すべての段落をすぐに独立したノートにしてしまうのは避けてください。切り離された一節は但し書きを失い、繰り返し出てくる主張を解釈しにくくなります。
各章のファイルには、書名、版、章、出典のページ範囲を短いヘッダーとして加えます。範囲は確認が済むまでは暫定でかまいません。そのうえで、章の内容を自分の言葉で要約したノートを別に作り、該当する作業ファイルへのリンクや明確な参照を添えます。
たとえば鉄道財政についてのテーマノートなら、著者の主張は第3章、反例は第6章、数値は付録を参照する、といった形です。こうした参照があれば、最初の解釈を確定したものとして扱わず、後から要約を見直せます。
ページの手がかりを残し、未確認のページ番号は書かない
印刷されたページ番号とPDF上のページ位置は、しばしば一致しません。スキャンには表紙や、印刷ページ1より前のノンブルなしの前付が含まれることがあります。可能な限り両方を記録します。「印刷ページ73、PDFページ89」のように書きます。ページの欠落や挿入があるとオフセットがずれるため、後の章でも対応関係を再確認してください。
抽出結果に信頼できるページマーカーがない場合は、実際に使う予定の箇所にだけ、確認済みの参照を手作業で加えます。段落の長さから推定してページ番号を入れてはいけません。リフローされたMarkdownは、PDFのようにはページ分けされていません。
引用ログは4列で作れます。
| 抜粋 | 出典位置 | 検証状況 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 正確な引用、または特定用の短い語句 | 版、印刷ページ、PDF上の位置 | スキャンで確認済み、または未確認 | 裏づける主張とその限界 |
「未確認」という表記は消さずに残してください。コピーした抜粋も、整ったノートに移したというだけでは検証済みの引用にはなりません。
引用や計算の前に見直す
引用するときは、一語一語、句読点、省略までページ画像と照合します。特に人名、日付、否定表現、行末のハイフンには注意してください。判読できない箇所は、つじつまの合う内容で埋めるのではなく、不確かであると明記します。
表については、表題、行と列のラベル、単位、注記を残します。こうしたラベルを省いて数値だけを並べ直すと、数値を解釈するのに必要な情報が失われます。数式は、演算子、下付き・上付き文字、式番号を確認してから計算に使ってください。
脚注も同じように扱います。どの記号がどの注に対応するのか、引用が次のページへ続いていないかを確認します。正しい注が誤った文に付いていると、著者の根拠を誤って伝えることになります。
自分の解釈を著者の言葉と分けておく
「出典からの抜粋」「自分の要約」「未解決の疑問」など、はっきりしたラベルを使います。正確な引用は引用符か引用ブロックに入れ、確認済みの位置を添えます。内容を自分の言葉で言い換えた場合も、出典は記録します。
ノートを書く中で解釈が変わったら、残しておいた抽出結果をこっそり書き換えるのではなく、要約のほうを更新します。この小さな切り分けがあると、後の見直しが格段に楽になります。OCRの修正と、自分の論旨の変化を区別できるからです。
文書全体の作業手順については、研究のためのPDFからMarkdownへの変換をご覧ください。ノートを編集するのではなく、まず書籍を読むことが目的なら、スキャンしたPDFからEPUBへの変換のほうが適した出力かもしれません。大きな変換を実行したり繰り返したりする前に、最新の料金をご確認ください。