翻訳を編集すると、読みやすくなる一方で原文から離れてしまうことがあります。意味の分かりにくい文を原文と照合せずに整えてしまうと、目に見えていた問題が、もっともらしい誤りに変わってしまいます。
意味の確認と文章の編集は分けて進めます。まずその箇所が何を言っているのかを確定し、そのうえで自然な表現を考えます。書籍に繰り返し使われる用語、登場人物ごとの話し方、技術的な情報が含まれる場合は、とくにこの順序が重要です。
ダウンロードしたファイルを保管し、レビューの目的を決める
元のEPUBと、翻訳版をダウンロードしたまま手を加えていないコピーを保管しておきます。編集は別の作業用ファイルで行い、版の名前は分かりやすく付けます。あとで変更内容に疑問が生じたとき、それが翻訳によるものか自分の編集によるものかを見分けられるようにするためです。
仕上がりの用途も決めておきます。自分だけで読むなら、気になる箇所の修正と疑問点のメモで足りることがあります。公開する版であれば、より本格的な編集作業、権利の確認、原文の言語を評価できる人の関与が必要です。スペルチェックをその代わりにしてはいけません。
PDF Craftは、翻訳版またはバイリンガルのEPUBを出力します。バイリンガル出力では、原文の各段落のあとにその翻訳が続きます。対応する箇所を探すのに役立ちますが、オンラインで文単位の編集ができるサービスでも、人によるレビューを提供するものでもありません。
文体より先に意味を正す
気になる箇所は原文と照合します。行為の主体、代名詞、否定、数量、条件の限定、参照先を確認してください。スキャンから文字を認識した原文であれば、認識された文言がページ画像と合っているかも確かめます。
そのうえで、訳文が明確に読めるかを確認します。不自然な語順、翻訳によって生じた繰り返し、文体の不統一は直します。ただし、原文が意図的に繰り返している箇所、あいまいさを残している箇所、人物ごとの言い回しは、そのまま残します。
たとえば「増加する可能性がある」を「増加する」に変えると、文は短く断定的になりますが、意味のある限定が消えてしまいます。これは無害な推敲ではなく、意味の変更です。同様に、敬称による呼びかけをすべて下の名前に置き換えると、小説の人間関係が変わってしまいます。
誤りを分類し、繰り返す問題を見えるようにする
原文の位置、見つけた問題、修正案、その理由を記録するログを作ります。分類の例をいくつか挙げます。
| 誤りの種類 | 記録する内容の例 |
|---|---|
| 意味 | 否定や条件が抜けている |
| 人物・用語 | 同じ人物に誤って二つの名前が使われている |
| 数字・参照 | 単位、日付、式番号、注の参照先が誤っている |
| 言語 | 意味は正しいが、文法や語句が不自然 |
| 構造・表示 | 見出し、段落、リンク、画像が正しく機能しない |
個人的な好みをすべて誤りとして扱わないでください。「この類語のほうが好き」と「この用語は別の仕組みを指している」は違います。理由を記録しておけば、その後の編集が場当たり的になりません。
同じ問題が繰り返し見つかったら、関連する箇所を書籍全体から検索し、文脈を確認します。複数の意味を持つ語を一括置換すると、正しい用法まで壊してしまうことがあります。
外部の編集ツールでできることと限界を知る
ファイルに合ったエディタを選びます。EPUBエディタは、パッケージ、章、リソースを保ったまま編集したいときに役立ちます。テキストエディタや文書エディタは作業用に抜き出した部分の編集には使えますが、あとでEPUB全体を組み直す手間が増えます。
文法やスペルのチェックツールは、不自然な言い回しを見つけてくれます。しかし、翻訳が原文と合っているかどうかを単独で判断することはできません。AIアシスタントに修正案を出させる場合は、該当する原文と文脈を渡し、提案された変更を自分で確認します。流暢に聞こえるという理由だけで、整った書き換えを受け入れてはいけません。
画像、スタイル、内部リンクは書籍と一緒に保ちます。EPUBを編集したあとは、保存したファイルを実際に使っているリーダーで開き直し、ナビゲーションを確認します。テキストの編集に成功しても、参照が壊れていたり、パッケージの形式が崩れていたりすることがあります。
変更は段落全体の中で読み直す
重要な修正をした箇所は、前後の文も含めて読みます。語の一致、代名詞、発言者、繰り返し使われる用語を確認してください。大きく書き換えた場合は、変更した行だけでなく、その場面や論の展開全体を読み直します。
そのうえで、以前に下した判断をいくつか見直し、自分の編集が一貫しているかを確かめます。変更した脚注や章へのリンクは実際にたどり、保存前のプレビューではなく保存したファイルで比較します。
構造面の最終確認については翻訳書のレビュー、繰り返し登場する人物名については登場人物名の一貫性をご覧ください。ポストエディットを適切に行えば、テキストはより明確になり、重要な変更には理由が残ります。同時に、著者が実際に書いた内容へたどり着く道も保たれます。